「ヤバイ感じなの?」
なにがどうヤバイのかはわからないけど、わたしのそのぼんやりしすぎている質問に、羽月は深刻な顔でうなずいた。
「ワタッチが部をやめるかもしれない……」
「えっ?」
箸でしっかりつかまえていたはずの麺がずるりと落ちた。汁がテーブルにはねる。でもそんなことにはかまっていられない。
だって、それはヤバイよ。ヤバイじゃん。想像の数倍はヤバイ感じじゃん。
ワタッチは菩薩のような男だ。
そして、野球部では、ワタッチだけが菩薩だ。
変わり者と問題児しかいないあの集団をうまく扱い、まとめられるのは、きっと彼しかいないはず。なのに、そのワタッチがいなくなったら、いったい誰が菩薩の穴埋めをするんだよ?
来年のキャプテンは、誰が務めるんだよ?
でもそんな実務的なことだけが問題なわけじゃないよ。いちばん重要なのはもっと感情的なこと……。
いつもニコニコしている優しいワタッチが野球部から姿を消してしまうなんて、すごくさみしいから、絶対に嫌だって話。
「それは、今回の喧嘩が原因で?」
わたしが問うと、羽月は言葉を選ぶように瞳を左右に動かした。やがてその大きなふたつの目がわたしをとらえると、彼女は決心したように口を開いた。
「実は、秋山さん絡みなの」
秋山さんってのは、キョウヘイがいま付き合っている彼女だ。
「キョウヘイと秋山さんって最近うまくいってなかったらしくて。それをワタッチに相談してるうちに、そういう関係になっちゃったっぽくて……」
そういう関係って、つまり、そういう関係?
「なにそれ? ワタッチも受け入れたの? 友達の彼女ってことわかってて?」
「うん、そうみたい」
マジかよ? ここでも横恋慕? もういいよ、いいかげん……。