セルフサービスのうどん屋に来ていた。羽月は温かいの、わたしは冷たいの。それぞれ280円で済んでしまった。オシャレなカフェなんかに来ないところが、なんともわたしたちっぽい。
それにしても福岡やら長崎やら熊本やらの土産ものが邪魔だな。修学旅行いってきました感がすごいじゃんね。
「――で?」
白い太麺を一本だけ飲みこんだあとで、わたしは聞いた。むっつりしてしまった。みっちゃんと引き離されたことに対する恨みっていうよりも、いつもと違う、明らかに弱っている羽月を目の前にしてうろたえていることを悟られたくなくて。
羽月はなにも答えないで、茶色のスープをただぼんやり眺めていた。
ゆらゆら、白い湯気が立ちのぼっている。うらやましいほどに整った顔を隠していく。
伸びるよ。冷めるよ。とても言えない。こんな羽月を見るのははじめてだから。
コワモテ彼氏と喧嘩した? 羽月は重度のブラコンだから、大好きな兄ちゃんと喧嘩したってのもあるかもしれない。それとももっと別の理由で……。
「ワタッチとキョウヘイが、喧嘩した」
わたしがひとりよがりに頭を悩ませている途中で、ようやく彼女はしゃべった。ちょっと厚めの、ぽってりした、色っぽいくちびるが、あんまりにも覇気のない声を生みだした。
それより、意外だった。羽月が誰かと喧嘩……ではなく、第三者の喧嘩のことで悩んでいるなんて、めずらしいこともあるんだなあ。
ワタッチとキョウヘイは、野球部のやつらだ。
ワタッチは次の夏が終わったあとでキャプテンになることが決まっている。らしい。何事に対してもまじめで、律儀で、なのにチョット天然で、とにかくいいやつを絵に描いたような男。
キョウヘイは……よくわかんないな。チャラい。軽い。しゃべってることがいちいち嘘くさい。顔がめちゃめちゃサルに似てる。わたしはあんまり得意じゃないタイプだけど、羽月とは部員のなかでいちばん仲が良いみたい。
べつに喧嘩くらいふつうにあるんじゃない? チームメイトどうし、アツくていいじゃん――とは、ちょっと言えないよなあ。