羽月の気の強さは異常だ。嫌いなやつに対する敵対心と容赦のなさは異常だ。そのへんはたぶんわたしがいちばんよく知っている。

このままだったらマジでみっちゃんにシネって言いかねないよ。それは嫌だ。みっちゃんには死んでほしくない。


「ごめん……」


とうとうあきらめて、わたしは謝った。羽月には聞こえないように、みっちゃんにだけ謝った。


「いいよ。ていうかおれ、山田さんに嫌われてんの?」

「たぶん」


いや、確実に。

でもそれは決して、みっちゃんに悪いところがあるってわけじゃなくて……。

わたしがみっちゃんになついてるのが、羽月は気に入らないだけなんだ。わたしが羽月に好かれすぎてるだけなんだ。うぬぼれでも自慢でもなんでもなくほんとにそうなんだ。

アンタは彼氏かよってね。みっちゃんからも言ってやってほしい。火に油を注ぐだけだから絶対にダメだけど。


わたしが羽月とのあいだに歩みを進める前に、みっちゃんが改札を通った。そうしないとわたしがなかなか動かないと見たらしい。大正解。

改札の向こう、みっちゃんが遠慮がちにひょろりと長い腕を振る。わたしも振り返す。

バイバイ、またあした、こんなところで別れるのはなんだか変な感じだね?


「奈歩」


いきなり、耳元でひっくい声。誰から見ても文句なしの美少女がこんなドスのきいた声を出していいものなのか。


「あのさぁ、羽月さぁ」


文句のひとつやふたつやみっつくらいは言ってやろうと思ったのに、


「奈歩……ごめん」


あの強気で傲慢で無敵な羽月がどうにも泣きそうに顔をゆがませているものだから、さっそくひとつめの文句からぶっ飛んでしまったよ。

ゴメンって、いま、羽月が言ったの?