ほうと息を吐き、ミルクティーを口に含んだ。今度はちゃんとゆっくりしたから火傷はしなかった。


「そんなこと思い出さなくていいから、いまは目の前の余弦定理に集中しような」

「ほんと、容赦ないなあ」


ヨゲンテーリってなんだよ。いったい誰が決めたんだ?

みっちゃんのシャーペンがコツコツとプリントを叩いている。その下には、見たくもない図形や数式の宇宙が広がっていて、とたんに頭が痛くなった。


「勉強見ろって言ってきたのは奈歩のほうだろ」


そうだけど。と言うかわりにくちびるを前に突きだすと、みっちゃんはあきれたってふうにため息をついた。

でも、みっちゃんは怒ったりしない。投げだしたりもしない。

わたしはそれをよくわかっているから、こんなわがままな態度をとってしまうんだけど、みっちゃんもそれをじゅうぶん知っていると思うんだけど。

みっちゃんはなぜか、奈歩に甘いね。そしてわたしはそれにめいっぱい甘えているね。


「年が変わっても、奈歩はなんにも成長しないな」

「みっちゃんこそ」


そう言って、お互いにいじわるな笑顔を向けあった。


新しい年がやってきたのはつい5日前のことだ。

そして新学期はもう2日後に迫っている。

やがてやってくる2日後、休み明け初日には、課題テストがある。きっちり全教科分ある。
たった12日間しかない冬休みなのに、そのなかには大晦日と正月もあるのに、まだわたしたちは1年生なのに、それでも課題テストはある。

考えるだけで泣きたくなるよ。

だってわたしはきっと今回も数学で赤点をとるんだ。理科総合でもとるかもしれない。


プリントの端っこに血を吐くウサギの絵を描くと、みっちゃんがその横に汚い字で『ガンバレ』と書いた。へにゃへにゃの字。