その美少女は1メートル向こうに突っ立ったまま、こっちをじっと見ていた。見ていた――というより、にらんでいた。


「奈歩っ」

「はいっ」


羽月は顔がかわいいぶん、それだけ迫力もあるね。思わず背筋が伸びてしまう。


「こっち来てっ」


ええ? どうしてわたしが。羽月がコッチ来たらいいじゃん。わたしたちのほうが改札に近いんだし、逆戻りなんてめんどいよ。

そういう気持ちがもろに顔に出てしまっていたのか、羽月は怒った。金切り声に近いような音をそののどから出して。


「ミッツには近づきたくないから、奈歩が来て。奈歩だけ来てっ」


なんだって? みっちゃんはバイキンじゃないよ!

みっちゃんはあからさまな苦笑を浮かべている。目が合って、ゴメンという視線を送ると、背の高いキタキツネはニガイ顔のまま小さくうなずいてくれた。


「コワイ顔して、いったいどうしたの?」


距離を詰めないまま、わたしは聞いた。面倒くさいと思っていることが伝わっていればいいなと思いながら。


「いま奈歩と話さないとダメなことがあるんだ」

「いいよ、じゃあ話しなよ、聞くから」

「ミッツがいるから嫌なの! ミッツは邪魔なの!」


そろそろほんとに怒るよ! と言いかけたところで、なにか平たいものが背中に当たった。ぽん、なだめるような、後押しするような、みっちゃんの手のひらだった。


「行ってやれよ」


そして薄いくちびるが静かに言う。苦笑をぐっと噛み殺しているのがまるわかりで、心底申し訳ない気持ちになる。

みっちゃんがいま嫌な思いをする必要はぜんぜんないのに、ほんとにごめん……。