ウーンと、わたしはうなった。
いろいろあったよ。でも、そのいろいろはなかったことにしようとしているから、答えに困ってしまうよ。
ミキにもナミにもなんにも言わない、聞かないでおこうって決めたんだ。それをほかの誰かに言ってしまうのはルール違反な気がする。
みっちゃんの横顔を盗み見る。目が合った。盗み見は失敗に終わった。
大好きだって思うよ。もうほんとに、心から思う。飽きずに何回だって思う。
もし本当に打算的に――心のスキマを埋めるためにみっちゃんの傍にいるのだとしても、この気持ちだけは、なんの打算でも計算でもない。
恋とか愛とかラブとか全部を超越しちゃってる場所に、みっちゃんはいるね。こんなの誰に理解されなくてもいい。理解されないままのほうがいい。わたしの世界のなか、みっちゃんが住む場所に、ほかの存在は必要ない。
「実はね、ナミが」
まるで誘導されているかのように口が開いていた。
みっちゃんになら言っちゃってもいいかなって、一瞬でも思ってしまったのは甘えかもしれない。
それでもどこかに吐きだしておきたかったんだ。おぞましくても、この事実をひっそり残しておきたかった。
走り書きのメモみたいに。
大切な日記みたいに。
ほかの誰にも見つからない、みっちゃんというノートに。
「――奈歩っ」
さあ本題に入るぞと意気込んだところで、ぜんぜん別の声に名前を呼ばれた。おかげでせっかく吐きだした息は声にならなかったし、がくっと膝が抜けそうになるのをこらえるのでいっぱいいっぱいだ。
「あ」
わたしのかわりに声を漏らしたのはみっちゃんだった。
「山田さん」
なんだって。
山田というのは、羽月の苗字。