駐輪場までの道のりを行くあいだ、みっちゃんはなんにも言わなかった。わたしもしゃべらない。旅行で疲れきった身体をくっつけあいながら、ただ慣れ親しんだ街の風を感じるだけ。
やがて駐輪場に到着し、自転車の鍵をかけるみっちゃんの学ランを眺めながら、わたしはやっと口を開いた。
「みっちゃん」
ガチャン、同時に鍵がまわる。
みっちゃんはのんびりとこっちを向いた。次の言葉を待っている顔。
「横恋慕ってしたことある?」
「は?」
一瞬だけ驚いたように目を開いたあとで、みっちゃんはちょっとむずかしい顔をした。ヨコレンボと、薄っぺらいくちびるが確認するように言いなおす。
そもそもみっちゃんは誰かに恋をしたことがあるんだろうか。そのへんぜんぜん知らないな。そういう話はしたことなかったや。彼女とか、いままでに、いたりしたのかなあ。想像つかない。
「ない」
みっちゃんはいきなり言った。それでもきっぱり言いきった。
「そういうめんどくさそうなのはやだからなぁ、おれ」
だよね。知っている。みっちゃんは、いつだって飄々としてる。
「なんでそんなこと聞くんだよ?」
ならんで駅に向かっている途中、やっと肝心なことを思い出したって感じに言われた。いまかよってわたしが笑うと、笑うなって怒られた。
「なんか、あった?」
どうした、なんかあったのか、こういうことをさらっと言えちゃうみっちゃんが、好きだな。