自分でも驚くほど大きなあくびが出た。本当に冷えてきたし、あしたも寝っぱなしじゃイカンと思い、そろそろ部屋に戻ろうかときびすを返したところで、なにか動くものが暗闇にふっと浮かんで見えた。
心霊のたぐいはけっこう信じているほうだ。こわい話とか、都市伝説とか、好き。だから今回もそういうのが真っ先に頭に浮かんだよ。ユーレイ。
でも、だからといって、こわい話が好きってのと、幽霊に遭遇するのが平気ってのは、決してイコールでは結ばれないのだ。
まさか、マジで、こんなとこで、とにかくやべえって気持ち。人間ほんとにビビったときは声も出ないんだって、はじめて知った。
でも幽霊なんかはぜんぜんやばくなかった。ほんとのほんとにやべえってことに気付いたのは、そのたった1秒後のこと。
――ナミだ。
幽霊の正体は、ナミだった。そして幽霊はもうひとりいた。5組の畑山くん。男バスのエースの――ミキの、彼氏。
きっとこれは見ちゃダメなものだって、頭ではじゅうぶんすぎるほどわかっていたんだけど、不思議なもので、そう思えば思うほどに見入ってしまう。
ふたりはわたしにまったく気付いていないようだった。それくらい、夢中で、必死に、キスしてた。
なんで? 嘘でしょ? やばくねえ? ミキは知ってんの? 知るわけない。当たり前だ。
混乱。頭のなかにハテナがいっきに浮かぶ。そして意味のない自問自答が始まる。そんなことするまでもなく、これがふたりによるミキへの裏切り行為だってことは一瞬で理解していたのに。