夜風に当たりたくてホテルを抜け出したのは、夜中の2時過ぎのことだった。眠れないのは昼間にバスで寝すぎたせいだ。そんで、こうやって夜ふかしして、あしたもきっとまた眠たいんだから、バカだ。

消灯時間にウルセェ先生たちももうすっかり眠ってしまっているらしく、ロビーから屋外に出るのは拍子抜けするくらい簡単だった。


頬を撫でていくのはちょっとぬるい風。熊本の風。普段生活している場所から何百キロと離れたところにいるんだと思うと、なんだか不思議な気持ちになる。

しょうちゃんからメールの返事がきている。何往復めかのそれは、最初の修学旅行のことからうんと逸れて、なぜか今度発売するゲームの話題に変わっていた。

なんて返そうかな? こんな時間にメールなんかしちゃったら、迷惑かな?

しょうちゃんはあしたも早い時間から部活なんだろう。強豪校の練習ってのはどんな感じなのかな。きっと、わたしの想像なんか追いつかないくらい、めちゃめちゃにしんどいんだろうな。

でもしょうちゃんはほんとに楽しそうなんだ。

カントクさんに指導された日は、うれしくってしょうがねえって感じの報告メールが届く。試合があれば、事細かにゲーム内容を教えてくれる。一度デッドボールが頭に当たって、右目を失明しかけたときも、しょうちゃんはなんてことないってふうに笑ってた。


そういうがんばってるしょうちゃんが、でもがんばってることをぜんぜんエラそうにしてないしょうちゃんが、まぶしいよ。まぶしすぎるくらいだよ。

だから、真夏の太陽を直視できないみたいに、わたしはしょうちゃんのこと、まっすぐ見られない。


息を吐いてケータイを閉じた。返事は朝にすることにした。

液晶の白い光が消えたとたん、あたりは真っ暗闇に包まれて、見上げてもそこに太陽は輝いていなくて、心も体も冷え冷えとするよ。