「――なにぼうっとしてるんだよ?」
はっとする。口元へ持っていきかけていたホットミルクティーの水面がぐらりと揺れて、いっきにくちびるにじゅわっと触れる。
「あ……っつ!? ヤケドした! みっちゃんのせいでヤケドした!」
「ん、誰のせいだって」
「だから、みっちゃん」
「おまえなぁ」
前方から伸びてきた手がグーの形になって、わたしの頭をコンと打つ。ちっとも痛くないゲンコツはみっちゃんの得意技だ。
カフェ・月のしずく。駅から少し離れた場所にある、ミルクティーが最高においしい純喫茶。
ここでいっしょに過ごすのがわたしたちの定番だ。
「勉強見てもらってるくせにぼうっとしてるやつが悪いんだろ」
「だってさぁ。雪降ってるの見ると、みっちゃんとはじめて会ったときのこと思い出すんだもん」
言いながら、すぐ右側にある洋風の大きな窓に視線を移した。同時にみっちゃんも同じほうへ目を向けるのが視界の端に見えた。
「なつかしいよね。まだつい2か月前なのに、なんかずいぶん昔のことみたい」
思い出す。パンクした自転車を引きずりながら、他愛もない話をして、駅まで帰ってきたこと。すぐに意気投合したわたしたちが仲良くなるのにたいして時間はかからなかったなあって。
「不思議だねえ。あの日、あの場所でみっちゃんの自転車がパンクしてくれなかったら、きっとわたしたちっていまこうしてしゃべってないんだよ」
たぶん、運命的な出会いじゃなかった。ドラマチックななにかがあったわけでもなかった。
友達の友達に、たまたま会っただけ。それから顔を見ればなんとなく挨拶を交わすようになっただけ。しょうもないことでなんとなく連絡を取りあうようになっただけ。そうしてなんとなく仲良くなっただけ。
たったそれだけのできごと。それでも、そのすべての“なんとなく”に、人と人との縁みたいなものを感じてしまう。わからないけど、相手がみっちゃんだから、感じてしまうのかな?