「――みっ!」
ちゃん!
目が覚めた。覚めるに決まってる。だって、隣のバスの窓から、黒いケータイを持ったままのみっちゃんが、笑いながらコッチを見てるよ。
コッチのガラスと、アッチのガラス。2枚の透明な壁を隔てた向こう側にいるみっちゃんは、なんだかパラレルワールドの住人みたいに見える。おもしろいの。それともわたしが寝ぼけているからそんなバカなことを思うのかもしれない。
『寝てないし』
カコカコ、わたしも、ガラス越しの男子にメール。
『口元、ヨダレぐっしょり』
返事はすぐにきた。
「ウソ!?」
声を上げ、ついでにがばりと顔も上げる。1メートル右側にいるみっちゃんは、ニヤニヤした口元を隠そうともせず、『ウ、オ』と口を動かした。
ウ、オ。――ウソ。
なんだよもう。ほんと、しょうもないいじわるするんだからなあ。
「よかったね、5組と隣どうしで」
いきなり、冷やかすようにミキが言った。はっとする。ナミも口元をいやらしく上げている。みっちゃんにはなんにも聞こえてないし、きっとなんにも見えてない。
そうなのだ。クラスのバスは小さい数字から順に並んでいるはずなのに、5組と1組はなぜか隣どうしなのだ。5組の大村先生が学年主任だからって理由らしい。5組のバスは、道路では先頭を走るし、駐車場ではいちばん端っこに停車する。そのあとを1組から順に続いていく。そういう感じ。
でも、まさか、みっちゃんが前から6列目の左の窓際に座っているなんて思わなかったよ。わたしは前から6列目、右の窓際なのに!
なんで、こんな偶然が、当たり前みたいにして世界に転がっているんだろうね? これはきっと、みっちゃんとわたしだから、起こった奇跡だね?