2日目の朝、なんとなく目が覚めると、隣の布団にナミの姿がなかった。起きぬけのボケた頭でトイレかなと思っていると、彼女は起床時間の5分前くらいにあわてて戻ってきた。
3日前からヒドイ便秘でトイレにこもってたんだと、恥ずかしそうにナミは言う。ふうんと、超低血圧のわたしがてきとうな返事をすると、なぜか背中をバシっと叩かれる。
その後、学年全員で窮屈な朝食を済ませ、それぞれ準備をさせられると、息をつく暇もないままにホテルを追い出された。
死ぬほど眠たい。まだ8時前だよ。旅行は好きなほうだけど、普段はチェックアウトぎりぎりまで部屋で過ごすタイプなので、こういうキチッとしたのは好きじゃない。
クラスごとに用意されている観光バスに乗せられてすぐ、わたしは右端の窓際の席でウトウトしていた。通路側のミキと、その通路をはさんで座るナミは、すでにキャッキャとおしゃべりにいそしんでいる。
だんだんとふたりの高い声が遠ざかっていく。低くうなるバスの揺れが心地いい。
ああ、眠たい、ナミと席かわってあげたらよかったかなあ……。
いつの間にかけっこうぐっすり眠っていたみたいだった。
ずっと身体の下で低音を放っていたエンジンが止まったことで、どこかへ飛んでいっていた意識は再びわたしのなかに戻ってきた。ああ、どこだろ、どこで停まってんだろ、いま……。
いつまでたってもぼんやりしてる頭でぐるぐるいろんなことを考えながら、それでもその全部をクソどうでもいいと思っていたとき、ふと、膝の上に置いている白いケータイがぶるりと震えた。
仕方なく目をあける。やべえ、半分も開いてなさそう。
『メール受信:光村大志』
みっちゃん?
『本文:なに寝てるんだよ』
なんだよ、なに寝てるんだよって、なんだよ?
「奈歩、トナリ、トナリ」
ちょっと笑いを含んだ小声が、ヒソヒソとわたしの左耳の付近でしゃべった。ミキのちょっとハスキーな声。なんだって、トナリ……?