世界一だと思っているお母さんのオムライスに赤い文字で好きな芸能人の名前を書いた。

ケチャップは甘いのより酸っぱいののほうが好き。ふわとろタマゴより、堅焼きタマゴのほうが好き。バターライスよりケチャップライスのほうが好き。

そのすべてが詰めこまれているこのオムライスが、ポテトサラダの次に好きなお母さんの手料理だ。


「ヨシダくんと別れたのだって、しょうちゃんのこと好きになっちゃったからなんでしょ?」


うげ、まだ続くのかよ、その話題。


「それはほんとに違うって」


言いながら、いまさっき書いたばかりのケチャップの文字をぐちゃぐちゃに広げると、わたしは大口あけて黄色と赤を頬張った。

ヨシダと別れたのは、ヨシダとわたしの問題だよ。そこにほかのどんな存在も関係ないし、わたしたちのソリが合わなかったってこと以外、どんな理由だってない。

端的にいうと、ヨシダはけっこうなマザコン、シスコンだったんだ。付き合うまでそんな男だとは知らなかったし、彼も自分がマザコンでシスコンってことは自覚していないみたいだった。それがキツかった。わたしは彼の大好きなママとイモウトに勝てなかっただけだ。ママとイモウトのことが世界でイチバン大好きって彼を、わたしが愛せなかっただけだ。

ほら、しょうちゃんはぜんぜん関係ない。


「ヨシダと別れたのと、しょうちゃんを好きだってのは、まったく別の話だよ」


聞くなり、目の前にあるわたしとよく似た顔がニヤッとゆがむ。しまった。いまの言い方はまずかった。


「つまり、やっぱりしょうちゃんのことは好きなんだね?」

「あーあ、知らないよ、もう……」


娘の惚れた腫れたって、そんなにおもしろいもの?

まあ、娘をからかっているときは楽しそうだからいいんだけどさ。アニキへのいろんな感情を押し殺したまま、無理してぎこちなく笑っているときよりも、ずっと。