「いいじゃんな? バカな子ほどかわいいって言うもんな」


冗談だってわかるようにそう言って、水樹くんが歯を見せて笑う。そして、もう部活だからとあっさり行ってしまった。ハンド部だって。野球部とサッカー部にグラウンドを占領されて、いつも端っこで練習してる、不憫な部活。

最後に手を振ってくれたので、思わず振り返すと、意外なほどうれしそうに笑ってくれた。笑顔がくしゃっとしていてかわいい印象。

やっぱり、なんとなく、ヤな人ではないんだろうなと思う。わかんないけどそんな気がする。ちょっと好奇心が旺盛で、ちょっとからかうのが上手なだけで。


「水樹くんって、おもしろいね」

「おれのほうがおもしろいよ」


みっちゃんが言う。おどけたようで、それでもどこか真剣な口調だった。おかしいの。どこからその自信がくるんだよ?


「それってギャグセンスの話?」


自転車の鍵を外し、ゆったりハンドルをきって歩くみっちゃんのあとを追いながら、わたしは聞いた。


「違うよ。まあギャグセンスもおれのほうが上だけど」

「えー、ほんとかなぁ」


みっちゃんが、腹がよじれるほどおもしろいこと言ってたことってあったかな。頭良いんだろうなあって感じのしゃべり方はいつもしてるけど。そういうおもしろさならあるけど。

わかんない。みっちゃんの話すことなら、わたしはなんでもおもしろいって思っちゃうもんね。

なんだって楽しいよ。みっちゃんといっしょなら、わたしは、いつも。たとえみっちゃんにギャグセンスがなくたって、どんなにくだらない内容だって、世界中がしらけたって、わたしだけは笑ってしまう自信があるよ。


校門を出て、ひとつめの信号を越えたところ。いつもの場所。

きょうも、みっちゃんのうしろに体重を乗せて、ついでに広い背中に右の頬を預けた。同時にのろのろと景色がうしろへ流れだす。

うんざりだなあ、この風景。もうすっかり見飽きたよ。

このままどこか遠くへ旅に出たいって、なんだか無性に思った。みっちゃんと。この自転車で。たったふたりきりで。