てきとうな掃除を終えたあと、ふたりとはその場で別れた。放課後はだいたい、ミキは部活へ、ナミは塾へ、わたしはみっちゃんのもとへ、それぞれ行く。

旦那にヨロシクって言われた。帰り際の挨拶がそれかよ。サイテーだ。


4月も下旬だというのに吹く風はまだひんやりしている。太ももを撫でる冷たい空気に身震いしていると、生徒指導の先生とばったり鉢合わせて、スカートの丈をなんとかしろとおっかない顔で言われた。うるせえ。凍傷になったって伸ばしてやるもんか。


2年1組の下駄箱をくぐり、3年生の自転車置き場を通過した向こう側に、2年生の自転車置き場がある。5組のエリアはけっこう奥のほうだ。2年5組、みっちゃんの新しいクラス。

やがて現れた自転車の海のなかに、ふたつの影があった。背の高いほうはみっちゃんだって、顔がよく見えなくても、シルエットだけでわかるよ。


「――あ」


それでも、わたしの姿を見つけて声を上げたのは、みっちゃんではないほうの影だった。


「来たよ」


その影が言う。みっちゃんがゆっくり振り返る。

わたしはどんな顔でなにを言えばいいのかわからなかった。笑みを含んだような『来たよ』がなんだか嫌だった。

みっちゃんの友達? 誰だろう……。


「遅い」


みっちゃん、いつもと同じトーン。なんとなくとてもほっとした。


「すっごいまじめに掃除してたからね?」


軽口をたたきながら駆け寄ると、嘘つけって、痛くないゲンコツが降ってくる。それをニヤニヤしながら見守っている隣の男子に、わたしも仕方なく視線を向けると、意外にもふわりと人懐こい笑顔を向けられた。


「どうも、はじめまして。水樹(ミズキ)です、ミツの友達です」


なんだよ。そんなふうにやわらかく目を細められちゃうと、反応に困るよ。


「あ……川野です」

「うん、知ってる」


なんで知ってるんだよって一瞬思ったけど、そりゃ名前くらい知ってるよなって、思いなおす。ミキとナミだって、羽月だって、みっちゃんとしゃべったことはないけど彼を知っているし、みっちゃんの友達がわたしを知っていたってどこも不思議じゃないね。