長い冬を越え、春を迎えると、わたしたちは当たり前のように2年生になっていた。校舎の4階にあった教室が3階に変わった。副担任がハヤミーじゃなくなった。先輩の半分がいなくなって、かわりに後輩ができた。
でもぜんぜんなんにも変わってない感じ。そりゃそうか。学年が上がったってだけで、わかりやすく、なにもかもが劇的に変化するわけじゃないね。
変化ってのは徐々にやってくるものだ。そうして知らないうちに変わっていく。自分も。人も。世界も。いつだって。
「奈歩、旦那が来てるよ」
1年のころからつるんでいるミキが、あごで教室のうしろのドアを指した。そのきれいすぎるつるつるのボブヘア、入学当時から長さも形もまったく変わらなくて、感心する。
ミキにはハーイとだけ返事をして、うしろのドアへと駆け寄ると、そこには背の高いキタキツネがいた。文系クラスは女くさくて慣れないのか、理系クラスに在籍している彼はちょっとそわそわしている。
「帰ろう」
わたしの顔を見るなり、みっちゃんは言った。一刻も早くここから離れたいって気持ちが透けて見えるよ。みっちゃんにはこういうかわいいところがあるね。
「掃除」
わたしはちょっといじわるに答えた。
「なんだよ、早く言えよ」
「だって、教室まで迎えに来るとは思わないよ」
なんだよって、みっちゃんはもう一度言う。せっかく迎えに来たのにって。わたしは笑いながらゴメンと答える。
「じゃ、下で待ってるから」
脱力したように笑ったあと、くるりときびすを返したみっちゃんは、すぐに長い廊下のなかへ消えていった。春になっても、みっちゃんは、どこか冬のにおいがする。