「みっともないとこ見せちゃった」
涙を拭いてへらりと笑ってみた。みっちゃんはなにも言わないで、ただ同じように薄く笑ってくれた。
沈黙が落ちる。ジョギングをしているおじさんが、2周目でわたしたちのほうをちらりと見て、遠慮がちに頭を下げた。わたしはつられて頭を下げたけど、みっちゃんは微動だにしなかった。
やっぱり、面倒くさいと思われているのかな?
取り乱して、感情をむき出しにして、子どもみたいに泣いたわたしのことを、みっちゃんは厄介なやつだと思っているのかな?
いつの間にか世界が赤い。3月の夕陽ってのはこんなにもまぶしいんだ。
「たまにはみっともなくていいんだよ」
突然、みっちゃんが言った。次の言葉をしばらく待っていたけど、彼はそれ以上はなにも言ってくれなかった。
「『みっともない奈歩』でも、みっちゃんは失望しないの?」
待ちくたびれて、わたしは言う。少しだけ勇気のいる質問だった。
「失望するほど、奈歩に対してなにも期待してないからな」
みっちゃんは軽く、でもおもいきり笑い飛ばした。
ここはきっと傷つくべきところなんだろうけど、なぜかぜんぜん傷つかない。どうしても否定の言葉には聞こえなかったからかな。
「みっちゃんは、いいよね」
空気が。言葉が。人間が。すべてが、いい。
きっとこれからもわたしは、みっちゃんを形作るすべてのものを“いい”って思うんだ。理由はわからない。わたしの肌にみっちゃんの温度が合う、たったそれだけのことかもしれない。
みっちゃんとなんとなくいっしょにいる理由は、それだったのかもしれない。