日本列島のまんなかあたり、海のない片田舎の高校で、みっちゃんとわたしは出会った。


その年いちばんの雪の日だった。

見渡すかぎりの雪景色。ほとんどの生徒が徒歩で駅まで向かうその白い世界のなかで、黒いダッフルコートを着た男子が自転車の傍らにしゃがみこんでいるのが見えたのが始まり。

すぐに、あ、見覚えのある男子だ、と思った。ほとんど直感のみ。だって、実はほとんど後頭部しか見えていなかった。


「光村大志くん」


気付けば声をかけていた。かけてしまっていた。

もともとけっこう考えなしな性格なので、違っていたらどうしようってあとから不安になったよ。


「え……?」


違います。と言われたときの言い訳を頭のなかでぐるぐると考えていた。

それでも彼は、白い雪をテンテンとくっつけた頭を、やがてのっそり上げた。そして切れ長の目をまぶしそうにさらに細め、わたしをじっと見る。

しばらく目が合っていた。白い肌に雪が落ちては溶けていくのを、そのあいだ、わたしはどこか現実味のない気持ちで眺めていたと思う。


「……あ」


しばしの沈黙を経て、ぴんと張りつめていた空気を破ったのはみっちゃんのほう。怪訝そうにゆがんでいた顔がなにかを思い出したみたいな表情に変わった瞬間のこと。


「川野奈歩? ……さん?」


わたしの名前を、紫に近い桃色に染まる、薄いくちびるが遠慮がちになぞった。あわててくっつけたような『さん』がなんだかくすぐったかった。

ああ、よかった。わたしが一方的に知っているだけじゃなかった。この人も、わたしのことを知ってくれていた。よかった。

ほっと胸をなでおろす。白い水蒸気が目の前に現れて、すぐに消えた。