ショッピングモールは中止にせざるをえないみたいだった。みっちゃんは、泣きじゃくるわたしをなかば抱えるようにして近くの公園まで連れていくと、ベンチに座らせ、ここで待っていろと言った。そうしてどこかへ行ってしまった。

気がふれてしまいそうに不安だった。みっちゃんを待っているたった10分のあいだ、もう胃は空っぽのはずなのに、何度も吐き気がこみ上げて、きつかったよ。

それでもみっちゃんはちゃんと戻ってきてくれた。新たに紫色の厚手のパーカーを羽織り、右手に救急箱を持っている。どうやら一度家に帰ったみたいだった。


みっちゃんは、その長い脚を折ってわたしの前にしゃがみ込むと、血だらけの両膝をていねいに手当てしてくれた。慣れない手つきだった。とても優しい手つきだった。じかに肌に触れられているというのに、恥ずかしさみたいなものはひとかけらも感じなかった。

ただ、じんわり、じんわりと、痛い。傷口に消毒がしみているんだ。でもたぶんそれだけじゃないね。ばんそうこうの濃い茶色が、赤く汚れた場所をそっと隠してくれた。


すがるように手を伸ばす。

答えるように腕が伸びてくる。

深い紫の袖をぎゅっと握りしめた。ほとんど力が入らないってことに気付いた。


「奈歩」


みっちゃんがわたしの名前を呼ぶ。いつもより少しだけ調子のまるい声。でも今度は、どうしたとは聞いてこなかった。

みっちゃんは、弱々しく袖をつかむわたしの手を振りほどこうともしないし、握ってくれようともしない。なんにもしない。とてもさみしい気がした。だけど、それが、どうしようもなく心地よかった。


北風のように寒々しい男だ。冷たいのとはぜんぜん違う。ただ、寒々しいほどに、みっちゃんは涼しい。

踏みこまない、踏みこませない、まさにそういう付き合いができるひとだね。わたしに興味があるのかないのかもわからない。そもそもみっちゃんは、誰かに興味をもつということがあるのかな?

それでも、みっちゃんはどこにも行ったりしない。そこにいる。ちょうどいい場所、近すぎず、遠すぎず、いつもそこにいて、わたしになんか興味ないって顔をしておきながら、いつも的確に、わたしが欲しいものをくれる。さらりと、なんでもないことのように。たいした意味はないってふうに。