「みっちゃん」
わたしも、彼を呼んだ。みっちゃん。その響きが、芯まで冷えきった身体にぬくい温度を注いでくれているみたい。
「寒いよ、みっちゃん」
へらりとした笑みがわたしの顔面にはひっついていた。でもこれは、心配かけたくないとか、そういうたぐいのことを思ったわけじゃなかった。
嫌なんだ。こわいんだ。情けないところ見せたくない。泣いたり怒ったり、激しい感情を見せたくない。メンドクセェやつだって思われたくない。わたしに失望してほしくない。
最初から最後まで、自分勝手な理由。
でも、ダメだった。
みっちゃんは長い脚を大股で動かし、薄着の女の子の目の前まで歩みを進めると、その顔をじっと見た。そして真剣な顔で言った。はっきりと。迷いなく。それ以外に言うことなんかないって感じに。
「どうした?」
どうした?
どうした?
みっちゃんのやわい声が、何度も頭にこだます。
今朝わたしが両親に聞けなかったことを、みっちゃんはふつうにぶつけてきた。頭を殴られたみたいに目がチカチカした。
どうした? どうした?
わたしは、どうしたんだっけ?
「みっちゃん……」
視界がゆがみ始めてしまった。ぽとりと涙が落ちる。1滴、2滴、3滴、そして無数に。
ふわりと、みっちゃんの黒いジャケットがわたしの冷えた身体を包み、白いマフラーが首元でしょっぱいしずくを受け止めた。あまりにあったかくて、涙が止まらなくなった。