めまいと頭痛がいっきにやってきた。


「ごめんね、奈歩」


お母さんがそんなことを言うから、我慢していたのに、胃のなかのものがゆるゆると逆流しだしたじゃん。


「奈歩、伯父さんになついてたのにね。ごめんね、お母さんがもっとうまくやってれば、きっとこんなことにはならなかったのに」


なついていたね。そりゃもう、すごく、お父さんが嫉妬するくらい、わたしは昔から伯父さんを好きだったね。

足の遅かったわたしに、うまい走り方を教えてくれた。野球のおもしろさを教えてくれた。高校受験のとき、いちばん親身になって、相談に乗ってくれた。楽しい話をいっぱいしてくれた。


でも、それも全部、噓だったのかなあ。偽りの愛情だったのかなあ。

だって、あんなにかわいがってくれたのに、こんなにも簡単に、わたしは伯父さんに切り捨てられてしまったんだ。それってあんまりにも悲しいことだ。絶望的に、きついことだ。


「……伯父さんにも、伯母さんにも、いとこのお兄ちゃんとお姉ちゃんにも、もう会えないんだね?」


ひどくかすれた声が出た。答えはとっくにわかりきっているのに、すがるようなことを言ってしまった。ださいよ。

お父さんがゆっくりと首を縦に振る。同時に、お母さんがもう一度ごめんねと謝る。


ころがっていたノエルのおもちゃをつかんで、電話に向かっておもいきり投げつけていた。

受話器が外れる。電源が落ちる。たった半年前に買ったばかりなのに壊してしまったかもしれない。でもそんなことにかまう余裕なんかない。

壊れてしまえ。電話なんか。悪魔の声が入った電話なんか、壊れてしまえ。壊れてしまえ。


わたしの涙腺と感情もすでにぶっ壊れていた。泣きながら、自分でもわからないなにかを叫んで、名前を呼んでくれる両親に背を向け、トイレに駆け込んだ。胃のなかが空っぽになるまで吐いた。パンとヨーグルトとコーヒーはほとんど消化されないまま、トイレの渦に沈んでいった。