なにも答えず、黙って冷蔵庫をあけた。ヨーグルトとパンを取りだし、ホットコーヒーをお気に入りのマグにいれる。なぜかぜんぜん味がしなかった。


お父さんとお母さんはなにか話しあっているみたいだった。わたしはなにも見えない、聞こえないふりをして、みっちゃんにオハヨウとメールを送った。カチカチ、白いケータイのボタンを押す音がやけにうるさい。

返事はすぐに返ってくる。きょうは学校の近くにあるショッピングモールに行く予定だから、みっちゃんちの最寄り駅に、13時に集合ということになった。


パンとヨーグルトを食べ終える。コーヒーはまだ3分の1ほど残っているけど、飲む気がしなくて、流しに捨てた。

そのまま歯みがきをして、顔を洗った。キッチンじゃなくて洗面所でしなさいって、いつもは怒るお母さんが、きょうはなにも言わない。気持ち悪い。空気が異様に重たいな。ああ、きょうは洗面所でしたらよかったかな。



「――奈歩」


そこでやっと、呼ばれた。顔をフェイスタオルでぽこぽこと拭いているときだった。


「うん?」


まぬけな声が漏れる。できるだけ重たくならないようにって、必死だった。必死なことを悟られないよう、すかした顔をたもつことにも、必死だった。


「こっちに来なさい」


そんな命令口調、お父さんは普段使わないから、さすがに背筋が伸びる。

拒否する理由も、余地もなかった。相変わらず電話の前に座っているふたりの少しうしろに正座をする。やがて、お母さんがおもむろに留守番電話のボタンを押した。