みっちゃんはピンクの紙袋をためらうことなく鞄のなかにぽんと入れた。黒地に、赤いプーマのロゴが入ったスポーツバッグ。スニーカーは赤のナイキなんだから、ブランドもそろえたらいいのになって、いつもちょっと気になる。


「中身ね、なんだと思う?」

「手作り?」


質問に質問で返された。


「そうだよ。チョコのしっとりほろほろクッキー」

「しっとりなのかほろほろなのかどっちだよ?」


どっちもだよ。いま考えたレシピ名だけど、我ながらセンスがなさすぎるなぁとは思った。


「まあ、毒じゃないことだけ祈ってるよ」


自転車の鍵をガチャンと外し、ゆったりとした動作でUターンさせながら、みっちゃんはいつもと同じように笑った。


「みっちゃんはわたしを料理できない女だと思ってるね」

「えっ、できんの?」

「できない」


料理はすっかりダメだね。お米のとぎ方もわかんないや。

でもお菓子作りは別で、暇なときけっこうする。料理と違って分量も手順も完璧に決まっているからやりやすいよ。砂糖は何グラム、小麦粉は何グラム、こういう順番でこういうふうに混ぜて……って、マニュアルどおりにやってたらいつの間にかできあがる。

そう説明していると、みっちゃんが感心したようにわざとらしいため息をついた。8割は本当の感動、2割はちょっとバカにしてるって感じだ。


「ねえ、みっちゃん。そんなわたしからのチョコはうれしいですか?」


できるだけ冗談っぽく聞いた。


「え? うれしいに決まってんじゃん」


みっちゃんはさらりと答えた。本気でうれしがってるのかぜんぜんわからない。

いつものようにふたり、自転車にまたがった。みっちゃんがペダルを踏む。中途半端な田舎の景色が走りだす。


「奈歩。ホワイトデーのお返し、なにがいいか考えといて」


冷たい空気をさえぎってくれる広い背中の向こうから、いつもよりほんのちょっとうわずったような声が聞こえた。

うれしいって、みっちゃんは、もしかしたら本当に思ってくれてるのかもしれない。わかんないけど、そうかもしれない。

ホワイトデーの……。そうか、来月のきょうは、男子が女子にチョコレートのお礼をする日だっけ。