家に帰るころになると、青いイルミネーションはすっかり夢のなかのできごとみたいに思えた。


「ただいまぁ」


言いながら、ようやっと足になじんできてくれている茶色のローファーで玄関に足を踏みいれる。香ばしいカレーのにおいと、愛犬たちがわたしを出迎えてくれた。


「ノエル、マカロン、ただいま」


ホワイトとレッドのトイプードル。ノエルが白で、マカロンが赤。ノエルはやんちゃで、マカロンはのんびり屋。どちらも男の子。

ノエルはわたしが中1のときのクリスマスにやって来て、マカロンはその次のゴールデンウィークにやって来た。ウチの大切な家族だ。


「きょうはカレー?」


足にじゃれつく2匹に言ったのか、キッチンに立ってるお母さんに言ったのかわからない。それでも、お母さんはこっちをちらりと振り返って、おかえりとそうだよをいっしょに言った。


「やったね」

「付け合わせはポテトサラダね」

「うっそ、よっしゃ」


マフラーをほどきながら、白い山をかくまっている銀のボウルに近づく。こっそり手を伸ばすと、お母さんはこっちを見てもいないくせに

「つまみ食いは禁止ですよ」

と言った。


どこに目が付いてるんだと、水色のトレーナーを横目に思う。ただわたしがポテトサラダのつまみ食いを始めると止まらないのはたしかなので、チェッと思いながらも自室に向かった。

制服は帰ったらすぐに脱ぎ捨てる。これは中学生のころからずっと変わらない習慣だ。嫌なんだ、制服。窮屈で。