奈歩はずっとおれを過大評価している。平凡なおれを平凡じゃないみたいに扱う。世界にたったひとりの奈歩は、世界にたったひとりのおれとして、おれを見てくれる。

なにも手にしていない18歳のおれには、それだけでじゅうぶんだった。

強くてもろい奈歩を手放せないでいたのは、本当はおれのほうだったんだ。

奈歩の傍にいたのは、ほかの誰でもない、おれのためだったんだ。


「みっちゃん、わたしね、みっちゃんと出会ってから、ずっと幸せ」


だけど、それでいい。この情けないおれの真実が、それでも奈歩にとって特別に輝いているのなら、おれは奈歩の思うおれでいよう。

奈歩の心のなかで、ずっと、おれは最高のヒーローでいよう。

いまのおれがどうだって、未来のおれがどうだって、少なくとも18歳のおれだけは変わらずにいよう。

いつまでも、いつまでも、18歳の奈歩がおれにとって完全無欠のヒロインであるように。


「いまから結婚するやつがなに言ってんだよ」

「あはは、そうだった。みっちゃんといっしょにいると高校のころに戻っちゃうんだなあ」

「アラサーなのに?」

「ちょっと、やめて、こう見えてまだ肌年齢は22なんだから」


あのころ、永遠を誓いあうには、おれたちは幼すぎた。そしていま、無邪気に寄り添いあうには歳を重ねすぎた。

きっと、そういう縁だった。

これから家庭を持つ奈歩とこんなふうに笑いあうのはむずかしくなっていくのだろう。でも、それでいい。もしかしたらおれたちは、もう二度と会わなくたっていいのかもしれない。

あの春の夜、星空の下で、奈歩も同じようなことを考えていたのかな。