なんにも変わらないな、と思っていた。奈歩はいくつになっても奈歩のまま、勝手で、バカで、強くて、もろいんだと。いつまでも少女のような危うさを秘めた笑顔を見せてくれるのだと。


「みっちゃん、わたしね、泣くことが減ったの。かわりに笑うことが増えたの。無理してそうしてるときだってもちろんあるけど、ひとりで考えこむことがあんまりなくなったよ」


ああ、そうか、きっと奈歩は自由でいることをやめたのだ。それと引き換えにいくつものきらめきを手に入れたのだ。

おれの好きだった奈歩は、消えてしまった。
おれの知らないところで、おれの知らないうちに、すっかり消えてしまっていた。

大人になっちまったんだな。大切なものを手にした少女は、守るべきものを持つ女性になり、いつしか見違えるような変貌をとげていた。


「ありがとう、みっちゃん」


東の窓から差しこむ日差しを浴びているのがあんまりにもまぶしくて、その姿を見失いそうになる。積もった雪に反射していつも以上にぴかぴか輝く黄色い光を、奈歩はまぶしいと思わないのだろうか。


「こんなわたしは、みっちゃんがくれたんだよ」


ゴトリ、奈歩の手がマグカップをテーブルに置く。

小さなペットボトル1本のホットミルクティーでさえ冷えきるまで残していた奈歩は、カップ1杯分くらいならもうあっという間に飲み干せるようになったらしい。


「出会ってからずっと、わたしのなかからみっちゃんが消えたことは一日だってない」


うれしいのか、悲しいのか、よくわからない気持ちがみぞおちのあたりからじわじわとこみ上がってくるのがわかった。それを押し返すように淡い色の甘みをいっきに飲み干す。まだまだ熱い。熱くて、泣きそうになる。


「みっちゃんに出会えてよかった」


ありがとう、と奈歩はもう一度言った。