いつもは駅の北側を歩くのに、きょうは南側に向かった。
田舎なのでひと駅がなかなか遠いわけで、つまりわたしはほとんどぜんぜん知らない景色で、ずっときょろきょろしていたけど、みっちゃんにとっては地元も地元。迷いなくドンドン進む長い脚に置いていかれないよう、必死で脚を動かすけど、もうそろそろ太股の感覚がない。
「なんか飲む?」
みっちゃんが突然言った。マフラーに隠していた顔を上げると、暗くなりかけの視界のなかに白く光る箱があった。自動販売機だ。
「飲む……」
「冷たいのでいい?」
「ばか」
みっちゃんはたまにしょうもないいじわるを言う。
「奈歩はホットミルクティーだろ、知ってる」
でも、わたしのことよくわかってくれていて、こういうところ反則だって思う。
ガコンと落っこちてきた小さめのペットボトルが、5秒後にはわたしの頬にくっついていた。みっちゃんの大きな手ごとつかむと、冷てえよって拒否された。冷え性が憎いな。
「みっちゃんも飲む?」
「うん、ちょうだい」
いまさっきわたしが口をつけた場所に、みっちゃんの薄っぺらいくちびるが触れる。
こういうの、みっちゃんはほんとに抵抗がないんだなあって思う。すごくいい。心地いい。たぶん、みっちゃんにあまり異性を感じないのは、こういうところのせい。