オムライスを食べるかカルボナーラを食べるか悩んでいた奈歩は、結局カレーライスに決めたらしい。ズッコケそうになりながらおれも同じものを頼んだ。勝手にホットミルクティーをふたつ注文する奈歩はやっぱりなんにも変わっていない。


「バタバタしてるって言ってたけど、忙しくしてんの?」


おしぼりで手を温めながら訊ねる。


「うん、まあね、仕事もあるんだけど、結婚式が来月だからさ……」


それを聞いて、奈歩が嫁いでしまうことを嫌でも実感した。嫁いでしまうったって、べつにおれは彼女の父親でも兄でもなんでもないけど。

でもたぶん、限りなくそういう感覚に近い。27年のうちたった数年しかいっしょにいなかったのに、こんなのは変かな。


「どうする? みっちゃん、わたし人妻だよ」


人妻らしからぬ笑みをニッと浮かべながら奈歩は言う。どうもしねえと答えても楽しそうに笑うんだから困る。


「ていうか、おれ招待されてないんだけど、結婚式」


半分、冗談で言った。


「みっちゃんは招待しないよ。だから手紙書いたんじゃん」


SNSじゃなくて手紙ってところがワタシっぽいデショ、と付け足される。


「だってさ、ほかの男の隣でウエディングドレス着てるわたしなんか見たくなくない?」


頬杖をつき、茶目っ気たっぷりに奈歩は言った。おれはあきれて笑っちまった。


「そう思うなら結婚じたい知らせてくるなよ」

「わたし以外の誰かから結婚の話聞くの嫌かなと思って」


そうかな。


「仮にみっちゃんが結婚したとして、人づてにそれを聞くのは嫌だなあって、わたしが思ったからさ」


たしかに、そうかも。ちょっと違うかも。たとえば水樹なんかから、川野さん結婚したらしいよー、なんて聞くのは。


「結婚が決まったとき、誰に報告するより先に、みっちゃんに手紙を書いたよ」


冗談か本気かもわからない調子で奈歩は言った。住所を入手する前に書いてしまったのだと彼女が笑ったと同時に、具だくさんのカレーがおれたちの前に置かれた。