自転車を置いて電車に乗った。電車のなかはびっくりするほどあったかかったけど、ニット帽を返す気にはならなかった。みっちゃんもなにも言わなかった。
白くくもる窓が田舎の景色とわたしたちを隔てている。いつもの透明に戻すついでに、人差し指で『みっちゃん』と書いた。きったない字。ついでにその隣につり目の男の子の絵を描く。こっちはけっこうていねいに描いた。かなり似た自信がある。左側に座るみっちゃんがそれを見てヤメロと笑う。
『奈歩』も、書いときたかったんだけど、その前に駅に到着してしまった。指先がじっとり濡れている。
ならんで冷たい地獄へ飛びだした。わたしの家の最寄り駅はもうひとつ向こうだけど、帰りはたまにこうして、みっちゃんの最寄り駅で、みっちゃんといっしょに降りる。
きょうはみっちゃんが「いっしょに降りない?」と言ったのだった。そういうのはレアケースだから、わたしはおもいきりうなずいたのだった。
「クソ寒いよ!」
大声で文句を言ったつもりだけど、くちびるの感覚がなくて、上手に言えない。
「さすがにさみぃね」
鼻のてっぺんを赤くして、みっちゃんも言った。
「でも、ごほうび欲しくない?」
そして続ける。みっちゃんも上手に口が動かせないみたい。
ごほうび……って、なんの話?
「ちゃんと100点とった奈歩にちょっといいもの見せてやろうか」
100点? ああ、再試か!
勉強を見てくれたみっちゃんに感謝の気持ちを示したくて、そしてやっぱり褒められたくてがんばったけど、100点にはこんな特典も付随してくるのか。なんだろ、ごほうび、イイモノって、楽しみにしていいのかな?