「みっちゃん。世界でいちばん幸せになって」


永遠の星空に照らされながら、わたしは願った。祈った。


「いちばん?」


みっちゃんが笑う。


「そうだよ。いちばんじゃないとダメ」

「そりゃあ、大変だな」


みっちゃんの笑い声を聞きながら、永遠のおしまいをそろそろ感じている。


「奈歩も」


涼しい温度が、静かな響きでわたしの名前をなぞった。


「奈歩も、世界でいちばん幸せになれよ」

「……ふ」

「なに笑ってんの」

「だって、イチバンがふたりもいるのかなって」

「そうだよ」


そうかあ。そうなのか。みっちゃんはやっぱりおもしろいやつだよ。

ゼロだったわたしたちの距離が開く。みっちゃんを見上げた。すっきりとした切れ長の目が、優しくわたしを映し出していた。もうひとすじだけ涙が頬を伝っていくのを感じた。


「みっちゃん、わたし、これからすっごい楽しい人生を送ろうと思ってる」


みっちゃんはなにも言わなかった。ただ、笑った。ほほ笑んだ。涙のつぶを大きな親指がさらっていく。


「だから、安心して」

「うん」

「もう大丈夫だよ」


たくさんの宝物を持っているから。

これから、きっともっとたくさんの宝物に出会えるから。


「奈歩は、大丈夫だな」



ふたりで駅までを歩いた。ゆっくりゆっくり歩いた。

最後って感じがしない。あしたからみっちゃんに会わない毎日が始まるなんて信じられない。

ふいに、歩みが止まる。一歩進んだわたしと、その場にとどまるみっちゃんとのあいだを、もう同じ空気は流れていないような気がした。春のぬるい風が穏やかにわたしたちの世界を違えていく。

「じゃあな」みっちゃんが言う。

「じゃあね」わたしが言う。

いつもとひとつも変わらない、特別なことは言わない、シンプルな挨拶がなぜか切ないね。

背を向ける。改札をくぐる。やがてやってきた電車に乗りこんだとき、なんだか違う世界に来てしまったような、不思議な感覚になった。