思い出にもならないようなくっだらねえことばかりをしゃべりながら、どちらが言い出したわけでもないけど、なんとなく、高校時代にふたりで行った場所をまわった。

学校からスタートして、月のしずくへ行き、電車に乗ってみっちゃんの最寄り駅で降りる。まだ点灯していない青いイルミネーションの街路樹をくぐったあとで小腹が空いたので、コンビニに寄って肉まんをふたつ買った。

肉まんをぺろっと平らげたわたしたちは、広々とした公園をゴールと決めた。

憩いの森。そういうジジくさい名称があるんだっけ?


「田舎は星がきれいっ」


誰もいない芝生の上を走りまわる。来月から女子大生になるとは思えない行動だとみっちゃんが笑う。


「つーか『田舎』って言うけど、奈歩だってまだカントリーなガールじゃん」

「うーん。あしたからシティなガールになっちまうからなあ」

「うるせー」


大阪に行くことは、こわくないわけじゃないよ。そりゃあそうだ。18年間もぬるま湯のなかにどっぷり浸りきって生きてきたんだもの。ずぶ濡れのままいきなり外に放りだされるんだもの。


モノであふれかえっていた実家の自室を1か月かけて片付けた。いるものといらないものを分けると、いらないものの山のほうが2倍くらいの大きさになった。わたしはなにかを手放すことが苦手なのだと、それを見て実感した。

それでも捨てた。パンパンになった45リットルのゴミ袋を4つぶん。けっこう勇気がいったけど、捨てたあとのすっきりとした気持ちはなんとも言えない。

そうして、ちんまり残った山のなかから、さらに必要なものだけをダンボールに詰めこんだ。

たったこれだけで足りるかな、と言ったわたしに、お母さんはほほ笑んだ。これからいくらでも増えるよって。新しいものを詰めこむために、古いものを手放していくんだよって。

ああ、そうだなって思う。

わたしはきっと、自分の思う輝く未来を手に入れるために、ここから見る星空を手放すんだ。


「――あたっ」


暗闇のなかを走っていたら盛大にコケた。なにもないところでつまずいた。芝生が生足に刺さってちくちくと痛い。ださいし。スカートなのにひっくり返っちゃったよ。パンツ見えなかったかな。

開き直って緑にごろんと転がった瞬間、奈歩は歩くのがへたくそだなと言ったみっちゃんを、強烈に思い出した。

忘れかけていた記憶だった。