「うっそでしょ、森山が?」
同じ中学だったくせに羽月は花純ちゃんのことを苗字で呼ぶ。たいして仲良くない人のことは名前で呼ばないんだと言っていた。なんだか冷たい感じがしないでもないけど、ポリシーがあるなら仕方ない。
「ミッツのどこがいいんだかぁ」
「ねー。ほんとだよ」
「奈歩が言うなっ」
わたしが持っているブラウスの色ちがい、黒を羽月が手に取る。はっきりした顔立ちの羽月には黒がよく似合う。
「それで?」
羽月は言った。質問で返してくるところ、鋭くて嫌。でもそれが妙に安心するから、羽月は不思議だ。
「すごい、複雑だった」
「ふん。だろうね」
「花純ちゃんがあまりにも完璧にかわいいからさ、なんか、負けたって思った」
羽月が鼻で笑ったので、わたしもつられてフンと言ってしまう。
「奈歩は最初から負けてるでしょ」
そうかもしれないね……と笑いながら言いかけて、やめる。羽月はもう冗談みたいに笑ってはいなかった。
「奈歩はミッツのこと、最後まで男として好きになれなかったんだ。だから負け。勝負にすらならないよ。男女の友情なんかこの世には存在しないんだよ」
誰が友達としてみっちゃんを好きだって言った?
「じゃあ奈歩は、どういうふうにミッチャンを好きなの?」
心のなかで言ったつもりだったのに、声に出してしまっていたみたいだ。