「ミッツは名古屋なんでしょ?」

「うん、そうだよ。工業系」


志望校のランクをひとつ下げたみっちゃんは、無事に前期試験で国立の大学に合格したのだ。


「離れ離れになっちゃうじゃん」

「まあね」

「いいの?」


ミッツキライとか、ミッツシネとか、好き勝手言うわりには気にかけてくれているんだな。羽月ってほんとにツンデレ野郎だ。


「いいんだよ。わたしの人生はみっちゃんのためにあるわけじゃないもん」


そう。わたしの人生は誰のためにあるわけでもない。わたしは、みっちゃんのためには生きない。

そのくせみっちゃんにはわたしのために生きてほしいと願ってしまうのだから、わたしはとりあえず、いっぺん死ね。


「ふうん。奈歩ってそういうとこ淡白だよね。卒業式もすぐ帰っちゃったし」


卒業式は関係ないと思うけどね。何枚も写真を撮るのが面倒だっただけ、卒業しても会おうねなんて思ってもいない社交辞令を言いあうのが嫌だっただけ。それでも、帰宅後に受信したメールの山を見て、ちょっとは感傷にふけったよ。

ああ、高校生が終わったのだと思った。窮屈な被支配を抜け出して、これからは自由という責任を負っていくのだと思った。

あのしがらみだらけの教室と、重たすぎる制服を、はじめていとおしく感じた。

部屋でひとり、さみしさに泣いてしまったことは、わたし以外に誰も知らない。


「……花純ちゃんがさあ、みっちゃんのこと好きなんだってさ」


胸元のあいた青いブラウスを手に取り、なんでもなく言った。口外するつもりはなかったんだけど、どうしても羽月には聞いておいてほしかった。もう卒業してるから罪にはならないよね。