名古屋に行こうと言い出したのは羽月のほうだった。大学に着ていく服がないからいっしょに選んでほしいってさ。
かわいい系のファッションが好きな羽月と、きれいめ系が好きなわたし、いっしょに選んだところでいい買い物ができそうとも思わないけどな。
つい2週間前、3月1日に、わたしたちは白襟のセーラー服を脱ぎ捨てた。でも、両肩は思ったよりもぜんぜん軽くならなかった。
セーラー服を脱いだわたしたちは、急速に女子大生にならなければならない。4月から大学に着ていくイマドキっぽい服を都会に出てきて買わなければならないし、流行色のチークとリップだって手に入れなければならない。
卒業式の翌日、ぱっつんロングの黒髪を、左半分だけ茶色に染めた。鏡を見るたびに気持ち悪いからいっそのこと全部マッキンキンにしてやればよかった。
「ミッツには言った? 大阪に行くって」
小花柄のワンピースを自分にあてがいながら羽月が聞く。そのワンピースはぜんぜんかわいいと思えないけどなあ。
滑り止めの大阪の私大へ行くと言ったわたしに、みっちゃんはちょっと意外って顔をしていた。名古屋も受かったんだろ、と、羽月と同じようなことを言った。
みっちゃんや羽月の指摘は妥当だと思う。大阪と名古屋、同じような偏差値だし、たぶん同じようなことを学べるから、わざわざ生まれ育った街を出る必要はない。実家のウマイメシとふかふかの寝床を捨てる意味もない。
それでも実家を出ることはわりと簡単に決めたよ。田舎が嫌だとか、都会に憧れてるとか、そういうのが理由ではなかった。
わたしは一度ひとりになってみるべきだと思ったんだ。
お金のかからない話ではないので、お父さんとお母さんには猛反対されるかと思ったけど、そうでもなかった。奈歩がそうしたいならがんばるよ、がんばれ、がんばろう、と言ってくれた。
ひとりになるつもりで大阪へ行くことを決めたのに、ひとりじゃないんだってことを再確認させられたみたいで、泣きたいような笑いたいような気分になった。