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「えっ。結局大阪にしたんだ!?」


羽月がただでさえ大きい瞳をこれでもかってくらい見開いて、食い入るように見つめてきたので思わず後ずさった。美少女のドアップってのは迫力がすごい。


「大阪かあ……」


今度はひとりごとのようにつぶやき、羽月はちゅるちゅるとストローに吸いつく。よく朝からバナナミルクスムージーなんていう重いものを飲めるなと言ったら、朝こそバナナでしょってけろっと返された。朝のバナナは固形と決めているからぜんぜんわからない。

わたしはすっきりとしたグレープフルーツジュースを口にふくみ、ゆっくり飲みこんだ。甘みと苦みがいっしょにやってくる、さわやかで不思議な後味が好き。

わたしたちのすべてを筒抜けにする大きなガラス越しに、ふだんとは違う都会の風景を感じる。名古屋駅はいつだって忙しそうにしているね。人も、物も、空気も、全部。


「コッチも受かってたんだから、奈歩も名古屋の大学にすればよかったのに」


拗ねたように羽月が言った。彼女は本当に神戸のK大を受け、やっぱりわたしと同じように落ちたので、結局、後期試験で名古屋の公立大へ進学することになったのだった。最後は堅実な羽月らしい選択だと思った。

やりたい放題の兄貴と、猫かわいがりされている妹とのあいだで、羽月はいつだって損をしている。わがままを言ってはいけない、自分だけは我慢しなければいけないという癖が染みついてしまっている。

奈歩は一人っ子でいいな、とたびたび冗談みたいに言われるけど、わたしは冗談のようには返せないから困るよ。

たぶんみんな、いろいろ抱えてる。それを見せないだけだ。


「じゃ、奈歩、そろそろ買い物いこう」


ズコッという音が鳴ると同時に羽月が立ち上がった。あわてて残りの黄色を吸いこむと、喉の入り口がイガイガとした。