「人生をめいっぱい楽しみなさい。自分の信じる道を進みなさい」
このひとにだけは敵わないって、もしかしたら18年間ではじめて思ったかもしれないよ。
たぶん、専業主婦のお母さんのことをどこかでバカにしていた。学校での成績とか、その先に待っている受験とか、もっともっと先の人生のこととか、たぶんどこかで、このひとにはわからないって思っていた。
それは親への反発というより、友達との価値観の相違のような感覚だったと思う。
「間違っても、失敗しても、お父さんとお母さんはずっとここにいるからね。安心して好きなことをしなさい。しんどいならたまに手を抜いたっていい。そのかわり、ちゃんと、一生懸命に生きていくんだよ」
いまここにある生活を幸せだと言ってほほ笑むお母さんを、出来損ないの娘の人生を信頼するお母さんを、わたしはきっと一生かかっても超えられないんだろうな。
わたしの毎日は、お母さんによって守られていた。そんなことにいまさらになって気付いた。
「……ありがとう」
泣きそうなのをこらえているせいで変な声になっちまった。
「お母さんのほうこそありがとう」
もう少しマシな人間になれたらいいな。
頭がいいとか、大企業に就職にできるとか、いい男をつかまえられるとか、そういうことじゃない。そういうなにかの数値で計れるようなものじゃなくて。
デカイ人間になりたい。
このデカイ地球上ではちっぽけでも、誰かにとって、自分にとって、デカイ存在でありたい。いつも、幸せだよってほほ笑んでいたい。
第一志望の大学から不合格通知を突きつけられた娘に、安っぽい言葉をかけるんじゃなく、おもいきり笑い飛ばしやがった両親のように。
わたし、お父さんとお母さんの娘に生まれて、ほんとに幸せだ。