お母さんがわたしのぶんのコーヒーをいれてくれたので制服のままリビングにとどまる。ミルクティーの甘さでたぷたぷになったおなかを、コーヒーの苦みで上書きしていく。
「そろそろ年季入ってきたよねえ、制服」
チョコレートのパウンドケーキを用意しながらお母さんが言った。
「まあ、あと1か月で卒業だしねえ」
「早かった?」
「早かったね」
そっかあ、と相槌をうってケーキを頬張るお母さんの顔を見る。娘から見ても若くてかわいいつくりをしているそこに、よく見れば小じわが増えていた。知らないうちに18年という年月をも重ねてきたことを実感する。もうわたしはガキじゃないんだってことを、自分じゃない誰かを見ることで実感する。
お母さんにとってこの3年間は早かったのかな? 中学の3年間は、小学校の6年間はどうだっただろう。幼稚園の3年間は。それまでの4年間は。
わたしは、お母さんの思う“18歳”になれたのかな?
「奈歩はいいね」
お母さんが唐突に言った。
「お母さん、専門学校を出てすぐに結婚して、専業主婦になっちゃったからなあ。選択肢がいっぱいな奈歩の未来をほんとにうらやましく思うよ。たまに嫉妬しちゃうくらい。まあ、お父さんがいて、奈歩のいるこの人生も、じゅうぶん幸せなんだけど」
2年前、大好きな兄貴から絶縁されたお母さんが、そんなことを言う。じゅうぶん幸せだって。お父さんがいて、わたしがいる人生を、そんなふうに言ってくれる。
泣きたい気持ちになった。
「好きなように生きなさい」
お母さんのこと、友達みたいで楽しいってずっと思っていたけど、たぶんぜんぜんそうじゃなかった。