サンドイッチとコーヒーをすっかり胃におさめると、水樹くんは足早に学校へ向かっていった。いまの話ミツと森山さんには言わないでね、と去り際に言い残していった水樹くんは、やっぱりすげえいいやつだって思った。


たぶんみんな、いろいろ抱えてる。顔をくしゃくしゃにして笑っていても。なんでもないふうに涼しく生きていても。見えないところで、がんばってる。

いろいろ抱えたみんなは、いろいろ抱えたままで卒業するのかな。そうしてどこへ行くんだろう。みんなは、わたしは、みっちゃんは、水樹くんは、花純ちゃんは、どこへ向かっているんだろう。未来は何色をしているんだろう。いつになれば抱えた荷物を手放すことができるんだろう。


もうホットでないミルクティーをじっと見つめた。淡い色が身体中へ沁みわたっていくよう。甘くて優しいにおいが心を満たしていくよう。

ああ、マグカップ1杯分くらい、ホットのうちに飲み干せるようになりたい。

ベジタブルサンドをかっこよく食べられるようになりたい。

もっと広い場所へ行けるようになりたい。

ひとりでも大丈夫になりたい。

ひとりでも大丈夫じゃないときに、大丈夫じゃないって言えるようになりたい。


そういう強い大人になりたい。


誰かを幸せにできるひとでありたい。

自分を幸せにできるひとでありたい。



「ただいま」


リビングのドアを開けるなりじゃれついてくるノエルとマカロンの向こうから、お母さんのおかえりが聞こえた。コーヒーの香りもする。お母さんもランチ後のコーヒーブレイク中だったみたいだ。


「早かったね」

「うん、まあね」


センター試験がぼろぼろだったにもかかわらず、T大をあきらめないと言ったわたしに、お父さんとお母さんは寛大だった。それは好きにしろと投げだしているのではなく、勝手な娘をあきらめているのでもなく、わたしの人生を尊重してくれているような態度だった。

それがほんとにうれしかった。