登校中に川野さんを見かけたからつい、と言いながら、水樹くんがカウンター席を横並びでふたつ確保する。向きあうのではなく隣あうほうをチョイスするあたりに彼のセンスの良さを感じる。


「こんな時間に登校してくるなんてヤンキーだね」

「こんな時間に下校してるやつに言われたくないけどね」


同時に笑い、味もにおいも違う液体を同時にすすった。サンドイッチはそれぞれふた切れあったので、ひと切れずつを交換した。

ブランチのような食事をしながら、他愛もない話をする。センターどうだった、大学どう、最近なんかあった、もう卒業だね。こないだイロイロあったのが嘘みたいだよ。


「わたしがみっちゃんの友達と付き合ってたこと、花純ちゃんに言ったの、水樹くんでしょ」


話題が尽きたころ、わたしは自然にそう聞いていた。

水樹くんがふっと笑う。コーヒーの香ばしいにおいが鼻をかすめる。


「そうだよ。だって森山さん、あんまり簡単にミツをあきらめるとか言い出すから」


やっぱりね。


「花純ちゃん、みっちゃんのこと好きだったんだね」

「やっかいなコブ付きのミツなんかやめて、おれにしとけばいいのにな」


いまさらっとやっかいなコブ扱いされたことについては、あえてつっこまないでおこう。


「あはは、またその台詞? 笑えないんだけどー」

「だっておれ、森山さんがミツを好きになる前から、好きだったし」

「え?」

「ごめんな。ぜんぜん振り向いてもらえないどころか、あの子、ミツを好きだとか言い出すから、川野さんに八つ当たりしちゃった」


水樹くんは笑っていた。たれ目を細めて。眉を下げて。くちびるをぎこちなく持ち上げて。

これは、いつものサイボーグみたいな笑顔じゃない。


「嫌なこといっぱい言ってごめんな」


わたしのほうこそ、嫌なこといっぱい思って、ごめんね。

水樹くんのほんとうに、はじめて触れているような気がする。きっとそんな軽いもんじゃないんだろうけど、そんな気がする。