ついさっきくぐったばかりの校門を、履きつぶしたローファーでもう一度踏み超えたのは、単なる逃げだ。泣いてる花純ちゃんと、泣かせたわたしが、同じ空間にいていいわけがなかった。誰にそう言われたわけでもないけど、世界中からそう言われている気がした。こう見えて心臓に毛は一本だって生えてない。
受験生ってのはいいな。昼前に学校を飛び出してもなにも言われないんだもん。
誰もいない通学路の上、まだてっぺんまで昇りきっていない黄色の光を見上げる。
そうかあ。
もう、卒業なんだな。
あったかいミルクティーを飲みたいと思ったけど、月のしずくに行く気にはなれなかった。駅前の安いカフェは平日の昼間だっていうのにざわついている。こんな田舎でも、多くの人によって街は生きている。
「ホットミルクティーと、たまごサンドください」
右耳のイヤホンをすぽっと抜き、声のトーンを上げて言う。左側からのみ聴こえてくるアニメの主題歌を心のなかで口ずさみながら、少しぽっちゃりした店員さんのかわいらしい笑顔を見ていた。
くしゃっと笑う女の子はどうしてこうも魅力的なんだろう。こんなふうに笑いたいなって、花純ちゃんの笑顔を見るたびに思っていたよ。
「あ、あと追加でホットコーヒーと、ハムサンドもお願いします」
いきなり右の鼓膜をさわってきた声にびっくりする。え? なに? いまわたしが注文してんだけど……。
「おれにおごらせて。こないだ好き勝手言ったお詫びってことで」
すぐ右を見上げると、そこには見慣れた学ランの男の子が、ひとえのたれ目を細めていた。
水樹くんは思い出したように「あけましておめでとう」と付けくわえた。もう明けてから1か月近くたってるよ、とはつっこまずに、わたしも同じ台詞で返した。