「わたしは、光村くんが好き」
陽だまりのような温度で花純ちゃんは言った。唐突すぎる告白に面食らってしまった。
「青田くんとうまくいってなかったとき、ずっと話聞いてくれて……そういう光村くんの優しさに、いつの間にか惹かれてた。わたしは光村くんのこと、男の子として好きだよ。奈歩ちゃんが光村くんに抱いてる“スキ”とはきっと違う」
もしこれが少女漫画なら、きっと花純ちゃんは文句なしのヒロインだ。そしてわたしは目ざわりな恋敵だ。読者に嫌われるポジションの女。
聞いてもいないみっちゃんへの想いを語る花純ちゃんは、恋してるって顔を隠そうともしない。
その顔はやがてぐにゃりとゆがみ、両目は涙に濡れていく。わたしがこんな顔をさせているんだと思った。
笑顔が抜群にかわいい女の子を、いま、わたしが泣かせてしまっているんだ。
「あきらめようって思ってたの。光村くんと奈歩ちゃんの仲の良さを知ってたから。奈歩ちゃんが光村くんを大好きなことも、光村くんがそういう奈歩ちゃん大切に思ってることも、わかってたから。でも、でも……奈歩ちゃん、光村くんの友達と付き合ってたんだよね……?」
どうして知ってるんだろう。水樹くんにでも聞いたのかな? まあ、いいか、そんなことはどうだって。
否定も言い訳もできない。しょうちゃんとわたしが付き合っていたのは事実だ。
「夏休み、文化祭の練習中に、『みっちゃんはわたしみたいなのに振りまわされていい男の子じゃない』って、奈歩ちゃん言ったよね。ねえ、そう思うなら、ほんとにそう思うなら、光村くんのこと手放してほしい」
ああ、そんなときから花純ちゃんの恋は始まっていたんだなあ。ぜんぜん知らなかった。
そうだね。みっちゃんとわたしだけの歴史があるように、花純ちゃんとみっちゃんだけの歴史だってあるに決まっている。わたしだけのものだと思っていたみっちゃんは、決してそうではなかったのだ。わかっていたことだよ。
わからないふりをしていただけ。
「光村くんの優しいところ、利用しないでほしい」
花純ちゃんは肩を震わせていた。そうして最後に、ごめんなさい、と言う。どこまでも完璧にヒロインだなと思わされる。
わたしはとうとうなにも言えなかった。圧倒的に美しい涙の前では、悪役の言葉なんかはすべてが無意味だってこと、知っていたから。