沈みかけの太陽は、ぽつりぽつりと言葉を落としていった。
「先月、帰省してたときにさ、地元のやつらから『ミツに女がいるらしい』って話を聞いて。木曜の夜に会ってるらしい……って。興味本位だった。まさか、その“噂の女”が奈歩だなんて思いもよらねえし」
いつ、どこで見られていたんだろう。でももうそんなことはどうだっていい。どうだっていいんだ。わたしにとっても、しょうちゃんにとっても、きっと。
「裏切られた、とかは思ってねえんだよ。前に3人で遊んだときにこいつら気ィ合うんだろうなって思ったし。それでも奈歩はおれと付き合ってくれてんだからいいだろって。
でも……見れば見るほどすげえ、情けなくて。ミツの隣にいる奈歩が、見たこともないような安心しきった顔してたの、忘れられなくて」
しょうちゃんは自分に語りかけているみたいに、たしかめるように話した。
ひどく淡々としたその様子は、怒っているというより、悲しんでいるように見えた。いや、悲しみすら滴らせないほど、彼はあまりにも中立の立場にいるような感じがした。
他人事みたいに、話すんだね。あなたとわたしのことを。だから、わたしも他人事みたいに聞いてしまうよ。
「なあ、奈歩。ミツが好きならそれでよかったんだ」
違う、と言いかけて、やめる。すぐそこまでやってきている終わりを感じていたからだった。
「ミツと付き合えばいい」
「……しょうちゃん、わたしは」
「話はそれだけだから。……もう行けよ」
しょうちゃん、わたしはね、それでもちゃんと好きだったよ。強烈に憧れていたんだよ。
しょうちゃんは、わたしのエネルギーそのものだった。
ほんとに、嘘なんかいっこもなく、きみに恋をしていた。
心のなかでワッと広げた言葉を、それでもわたしはひとつも言わなかった。言えなかった。
しょうちゃんがそういう言葉を望んでいないこと、わかっていたから。なにを言ったとしても、この太陽がわたしの頭上で輝くことは、もう二度とないから。
恋愛はもろい。
ひとつボタンをかけ違えただけで、たった一歩がズレただけで、もう取り返しがつかないね。
そういうものだってわかってはいても、もういっしょにいる意味なんか見いだせなくなっていても、こういう瞬間はやっぱり、少しだけさみしい。心はあまりにも勝手だ。
めらめら揺れている神社の炎をまぶしいと思った。
ああ、わたしはいま強烈な光をひとつ失ったんだと実感すると、冬の寒さにすら耐えられないような気がした。