「ミツと、ふたりか?」


しょうちゃんはぎこちない声のまま、ぎこちない響きで言った。

わたしはうなずいた。彼のぎこちなさにつられてロボットみたいな動きになってしまう。


「ふうん……」


冷たい風に乗せるみたいに息を吐いたしょうちゃんの声を、はじめて涼しいと感じた。涼しい、というより、寒い。

決して“日常”ではない大晦日の夜、そしてこんな時間にみっちゃんとふたりで現れたわたしを、松田祥太郎という男はどう思うんだろう。ふざけんなって思ってるかな。もう、そんなことすら思わないかな。

おかしな沈黙が流れている、なんとも気まずい空気を、やがて戻ってきたみっちゃんが優しく溶かしていく。みっちゃんはたしかに涼しい男の子だけど、それは冷たいとはまったく違う温度だ。


「……なあ、ミツ、ワリィんだけどさ」


冷たいとあたたかいが混じりあう空気をぱっくり裂くように、しょうちゃんが口を開いた。


「ちょっと奈歩とふたりで話させてくんね?」


みっちゃんは一瞬だけ驚いた顔をして、それからいいよとなんでもなさそうに言った。なんで、とか、どうした、とか、聞かないんだな。聞かれても困るんだけどさ。

わたしの意見などは加味しないまま、しょうちゃんはなかば強引に人混みを外れた。人気(ひとけ)のない場所ではなく、みんなから少し離れた場所に移動しただけのところに、この男の心遣いみたいなものを感じた。

遠くで神社の炎がめらめらと揺れているのが見える。


「無理はしなくていい」


しょうちゃんはいきなり言った。


「無理におれと付き合ってなくていい」


そして補填するように言った。

太陽が、地平線へと沈んでいく。