年越しをするためだけに神社へ向かうのには早すぎるので、ごはんを食べに行くことになった。地元のショッピングモールのフードコート。食べ納めがコレかよ?

せめて気分だけでも、と思い、好きでもない蕎麦を食べているわたしとは裏腹に、みっちゃんはマイペースにドーナツを頬張っている。苺のやつをチョイスするあたりが笑える。ほんとに甘党だね。


「好きなもん食えばいいのに」


ぜんぜん箸の進まないわたしを見てみっちゃんが笑う。口元にピンク色のチョコレートをくっつけたまま。

うるせいやい。大晦日は蕎麦って決まってるんだ。みっちゃんはこういうイベントごとは大事にしないほうなのかな。口に苺味なんかひっつけやがって。


へたくそなりに、わざとずぞぞっと音を立ててすする。マズイ。年に数えるほどしか食べないので、蕎麦の良し悪しなんかには詳しくないほうだけど、それにしたっておいしくない。あーあ。石焼ビビンバにすればよかった。


「ねえ、みっちゃん」


食べることにすっかり飽きたわたしは、目の前のキタキツネに向かって言葉をつむぐことにした。


「あと4時間もしたら年が変わるんだよ。変な感じだね」

「なにも変わらないよ」

「それが不思議なんだって言ってんじゃんか」


わかってないなあ。


「きょうもあしたも、ほんとになんにも変わらないのにね。正月だーわーいやったー! って騒いで、日の出見に行って年始セールして餅食べてるのって人間だけなんだよ。やばくない?」

「あはは! 奈歩ってわけわかんねーことばっか考えてるよな」


豪快に笑ったみっちゃんが、長い腕をさらに伸ばして最後のひとかけらをわたしの口に押しこむ。

なかなかウマイじゃないか、苺味。


「でも奈歩だって合格祈願しに行くじゃん」

「それは正月関係ないもん」

「そう? おれは年始一発目に祈願することに意味があると思うけどな」

「それってゲン担ぎみたいなもん?」

「まあ、そんなところ」


年越し蕎麦は食べないくせして、おかしな自分ルールにのっとってゲンを担ぐのか。


「食べる? 蕎麦」

「いらね」


みっちゃんって、やっぱりおもしろいなあ。