「なんで?」
「なんでって……」
わたし、彼氏いるし。いちおう。たぶん。うまくはいってなくても。
「だって……水樹くんは、みっちゃんの友達じゃん」
わたしたちのすぐ隣にある窓が北風に吹かれてガタガタと鳴いた。その向こうから聞こえてくる、同じ制服を着た女子生徒たちの笑い声に、なんだか現実味を感じられなかった。あの楽しそうな光景は別次元のもののように思えた。
「『みっちゃんの友達』……ね」
水樹くんの瞳はわたしを逃がさない。おちゃらけているようなまなざし。それでいて強い光。わけわかんない。
「でも、川野さんってミツの友達と付き合ってるよね」
心臓をナイフでぶっ刺されたのかと思った。頭から氷水をぶっかけられたのかと思った。
なんで? なんで知ってんの? なんで?
みっちゃんは、知ってんの?
「ミツは気付いてないよ――たぶんね。知らないふうだった。言ってないんだな」
水樹くんはわたしの心をすっかり見透かしたように言った。ナイフと氷水に加え、豪快な腹パンも食らった気分。あー、きもちわりぃ。
「こないだ会ったんだよ。1か月……も前じゃないか。駅でさ、ミツに川野さんのこと聞いてきたやつがいて。ガタイのいい、はっきりした顔立ちの、ちょっと関西弁まじりのハスキーボイス……」
間違いなくしょうちゃんのことだ。
たぶん、彼がコッチに帰ってきていたときに会ったのだろう。駅でしょうちゃんに突然呼び止められた日、みっちゃんにも会ったと言っていたけど、水樹くんもいっしょだったということか。
「確信はしてなかったけど、その顔見る限り、おれの予想は当たりだな」
うるせえ。
「なんでミツに隠してんの? つーか、彼氏は知ってんの? 川野さんがミツにダイスキダイスキ、ケッコンケッコン言ってること」
うるせえ。