「川野さんはほんとにミツのこと好きだよな」


もう1億回は聞かされたことを、水樹くんはきょうも言った。


「でも付き合わないんだよな?」


ただ、今回はわたしが答える前に、そんな質問をくっつけてきやがった。


「もう、その話はいいよ」

「いやぁ、だって、じゃあどんな男なら川野奈歩を満足させられるんだろうと思ってさ。あのミツでもダメなんだろ」


みっちゃんでもダメなんじゃない。

みっちゃんだから、ダメなんだ。

このニュアンス、そしてその理由を、どうすればうまく伝えられるんだろう? 言葉ではきっと表現できない。身体のなかでふくらみすぎたこの不思議な感情を説明できる言語なんか、世界中のどこを探したって見つからない。


「おれとか、どう?」


ハァ? と、死ぬほど間の抜けた声が口から飛び出た。飛び出たというよりは、ガスのように抜けていった。


「おれと付き合わない?」


いきなり、どうした?

と言ってやりたいのに、なにを考えているのかわからない両目にまじまじと見つめられているせいで、ダメ。この男は本当にこわい。こういうところだ。すごく嫌。

わざと嫌悪感まるだしの表情を浮かべてやっても、まるで効果はなかった。彼はこの茶番を一歩も引くつもりはないらしい。


「……無理、でしょ」


しぼりだすようにわたしは言った。ばあさんのようにしゃがれてしまった声を、わたしは自分で笑いそうになったけど、水樹くんは笑わなかった。