わたしはまた間違えたのかもしれない。また……。
おじいちゃんの赤黒い首と、伯父さんからの留守電を思い出す。ミキとナミの笑顔を思い出す。喉元に刃物を突きつけられたような気分になる。
「ミッツは知ってるの?」
吐きだしたはずの空気が肺めがけてぐわっと戻ってくるようだった。
黙ったまま甘ったるいコーヒーをすするわたしに、羽月は
「……知らないんだ?」
と言った。
「かわいそう」
なにが?
「奈歩がほかの男と付き合ってること知らないなんて、ミッツかわいそうだね」
「……いつもはミッツシネとか言ってるくせに」
「奈歩っていつもひょうひょうとしてるけど、肝心なものから逃げちゃうとこ、あるよね」
顔がカッと熱くなるのがわかった。逃げてなにが悪いと思った。思ったけど、言えなかった。羽月の前でダサイ奈歩になってはいけない。
「ツミなオンナ」
からかうように羽月は言った。そして空っぽになったスチール缶をゴミ箱に押しこんだ。
「奈歩はいつも、ミッツのことトクベツって感じに話すじゃん」
「それ、前も言われた」
ただひとつだけ違うのは、以前同じことを言われたときよりもずっと明確に、わたしにとってみっちゃんが特別な存在になっているということだ。
「ミッツにとってもきっと奈歩は特別でさ、でもそれは奈歩の望むカタチとは違うのかもしれないってことに、ほんとは気付いてるんでしょ」
ぼうっとしている。頭が。心が。なにを言われているのかわからなくて、でもそれはわかろうとしていないだけなんじゃないかって、身体のどこかでは理解していた。たぶん、まだうっすらと傷の残る両の太股。
羽月のムチっとした指が、わたしのぶんの缶も捨てようとこちらに伸びてきた。まだ残ってるのかよ、と言われる。
「ミッツのこと嫌いだけど、今回ばかりはかわいそうだと思うよ」
そうかな? ほんとに“かわいそう”なのは、みっちゃんかな?