「なんか、付き合ってるみたい」
はっとする。あわてて羽月のほうに目を向けると、彼女は茶目っけたっぷりに笑っていた。そりゃあもうおそろしいほどに。
「図星」
こりゃ、言い訳はできないなあ。
「ねえ、いつから?」
「……夏休み前」
「ええ!? もう3か月以上たってるじゃん。なんで言わないの?」
なんでって、言われてもね。
こんな田舎にスターバックスなどというおしゃれな店はない。羽月が近くの自販機でホットの缶コーヒーをふたつ買い、ひとつをわたしに手渡してくれた。激甘。砂糖とミルク全部入りだな。
「始まりは? しょうちゃんから?」
「まあね」
だから言ったじゃん、と、羽月はうれしそうに言った。
「しょうちゃんは奈歩のことが好きだってね!」
たしかにそんなことも言われていたっけ。
あのころ、わたしは必死に片想いの恋を大切にしていて、自分の想いばかりを大切にしていて、ほかのなにかについては考えようともしていなかった。
そう、たとえば、しょうちゃんの気持ち、とか。
「よかったね」
羽月は心から思っているってふうに言った。大きな瞳はきゅっと細められていた。
「奈歩も、ずっと好きだったんでしょ?」
「うん……。まあ、ね」
好き。好きだった。あの太陽みたいなしょうちゃんのこと。ちっぽけな、それでいてちっぽけでいたくないともがくわたしを、容赦なく宇宙の塵へと変えてしまうしょうちゃんのこと。
たぶん、神様みたいに思っていた。信心深い教徒のように、松田祥太郎という宗教を信じていた。
気持ちを確認しあい、近づいて、触れた先の神が、ただの人間だってことに気付くまでは。