「ワリィな、友達といっしょだったのに。連絡くらいすりゃあよかった」


しょうちゃんが眉を下げて笑う。こんな表情を持っている人だってこと、付き合ってから知ったな。

ウウン、とわたしは答えた。


「奈歩もこれから塾?」

「あ、うん……でも」

「センターまであと2か月だもんな。がんばってんだな」


なんだか心にグサグサくるよ。第一志望がE判定だなんてかっこ悪いことは、口が裂けても言えないと思った。

しょうちゃんは進学先がすでに決まっている。野球関係で声をかけてもらったんだと言っていた。努力してきたことがこうして未来へつながっているしょうちゃんは、やっぱりものすごくかっこいいよ。自分が恥ずかしくなるくらいに。


「いつまでこっちにいるの?」


思わず話題を変えてしまったことがほんとに情けない。


「ああ……まあ、たぶん、2週間くらいかな」

「けっこう長いんだね。なにかあったの?」

「いや。……また、連絡する」


彼はもう一度「ワリィな」と言って、急くようにきびすを返してしまった。足を踏みだす前、羽月にもペコっと頭を下げたのが、なんだか意外だった。こういうことができるような男だとは思っていなかった。

はじめて会ったときのことを思い出す。おまえがヨシダの女かと、馴れ馴れしく聞いてきた松田祥太郎をなつかしく思う。

切ない気持ちになった。

焦がれるほどに憧れていた、いつも太陽のように見上げていた松田祥太郎は、単なる優しい男へ変わってしまった。わたしの恋人なんかになってしまった。

そんなふうに思ってしまう自分を自覚して、さみしい気持ちにもなった。