家は近いが、みっちゃんと同じように、羽月ともいつも駅で別れている。受験生に塾というやつは欠かせないのだ。きょうも同じ、じゃあね、と手を振りあったところで、なぜかぜんぜん違う声にいきなり名前を呼ばれた。
奈歩――と、もうすっかり聞き慣れたような、いつまでたっても聞き慣れないようなハスキーボイス。
「……しょうちゃん?」
「よう」
羽月が大きな目をさらにかっ開いていた。そういえば本物のしょうちゃんを見るのははじめてだっけね?
わたしもたぶんまぬけな顔をしていると思う。だって、なんでここにしょうちゃんがいるんだろう? 学校は? まださすがに冬休みには入っていないよね……。
「ちょっと、いろいろあって」
わたしが質問する前に、しょうちゃんは答えた。
「ちょっと……帰ってきた」
なんだか歯切れの悪い言い方だって思ったけど、特になにも聞かなかった。たぶん、しょうちゃんが目の前にいるという現実に圧倒されていた。
「ミツが、奈歩ならここ通るはずだって。さっき会ったんだけどさ、さっさと塾行っちまって、あいつ」
「そうなんだ」
「ほんとは学校……星翔まで行こうと思ったんだけど、さすがにな」
しょうちゃんチからここまで、15分も電車に揺られて来たのだろうか。わざわざ来てくれたのだろうか。わたしに会うために?
身体の奥のほうが震える感じがした。なんの身震いなのかはわからなかった。